# 56 『 伝言ゲーム 』
さすがに野球にあまり関心のない私でも、今年の甲子園は観ていて盛り上がりましたね。
『熱く、闘う』とはまさしくああいうものを言うのだと改めて思いました院長の成木海次郎です。
先日、いつものように治療院の電話が鳴った。あまり特別な事がない限り私に取り次がれることはないのだが、その電話はあっさりと子機が私の手元にやってきた。
用件を聞いてみると、
『そちらに英語が話せる方はいらっしゃいますか?』
ときたもんだ。これは非常に難しい問題である。
そりゃあ人間、島国で生まれて育ったとはいえ28年ぐらい生きてりゃ異国のコトバのひとつやふたつは話せると言えば話せる。ただ、どうにもこうにもそんな次元の話ではないこともこれまた明確だ。
とは言え、実際なところ、現在も数人の外国の方の患者さんはいらっしゃっているが、こんなところで見栄をはってもしかたがない。
正直に『えーっとですね、できれば通訳的な方が一緒にいらしていただけるのが確実なのですが・・・』
すると向こうも『では、私が同行します』と快諾してくれた。それは何より、大助かりだ。
よく“海外に行くと身振り手振りでけっこういけるよ!!”的な発言を耳にするが、
私は生まれてこのかたこの島国から出たこともなければ、施術が始まれば患者さんはベットにうつ伏せになるわけだから、まさにお手上げ状態。
通訳さんがいて困る事はなにひとつないのだ。
そうこうしている間に予約の時間がきた。来た、と思ったらもうそりゃあもう見た瞬間からすぐにわかる腰痛状態。国は違えど腰が痛いときの様子は全世界共通。そこに国境はない。
しかし、これはなかなかやっかいな状況だ。いわゆる急性腰痛、みなさんが思い浮かべるところの“ぎっくり腰”だ。
“ぎっくり腰”に限らず腰痛の場合、必ずいくつか問診にてきちんと確認しなければいけないことがある。そういくつもあるわけではないので皆さんも腰痛の際には参考にしてほしいですが、
①まずは、事故や怪我の有無。
これはもう当然といえば当然。外傷です。
ちなみに補足しておきますが過去に一度でもありますか?という意味ではない。ほんと今さっき高所から転落したとか車で追突されたとかいうレベル。外傷によるパーツの損傷、これは我々カイロプラクティックには手の出しようがないですし、普通そういう人は病院いきますよね・・・
②腰痛発症年齢が55歳以上で、それまでに腰痛経験が一度もない悪性腫瘍の病歴のある方かどうかの確認、です。長いですね。
これもきちんと補足しておきますが、悪性腫瘍とかわけわかんない言葉が出てきたぞ、と思うでしょうが実はこれ“背骨の癌”、『脊髄腫瘍』かどうかの判断なのです。
もちろんそもそもその確率は非常に少ないです。そして脊髄腫瘍はほとんどが転移によるものなので、過去に悪性腫瘍の病歴の無いかたならなにひとつ問題ないです。
③腰の痛みに強弱があるかないか、ということ。腰の痛みが楽になる姿勢などなく、動作や時間帯に関係なく
(朝寝起きが痛いとか、靴下を履くときが痛い)痛みが一定である場合はきちんとした医療機関にて内臓疾患の検査の必要があります。
大まかに言えば上記のものに該当しない腰痛であるならば危険なものではないという判断ができるのです。
なのでさっそく通訳の方を通して問診を始める。患者さんは男性の方だったが、通訳の方のお陰で、いわゆる危険な可能性のある腰痛ではないことがきちんと確認できた。
これでこちらも安心である。もしこれで通訳の方がいらっしゃらなければ、辞書を引きつつ問診するか、未来デパートに行って“翻訳こんにゃく”を購入するまで待つかのふたつにひとつであった。
戯言はさておき、そうなるともうひとつ施術に入る前にきちんと伝えなければならないことがある。
おそらくこれが腰痛治療の上で一番重要になってくるのだが、それは
『基本的に“安静にしてはいけない”』
ということなのだ。
言い方を補足するならば、痛みがひどすぎて身動きひとつとれない状況以外では、安静にせず、通常の日常生活を継続することが大切です、と説明することなのだ。
だからってなにも無理矢理動かせと言っているわけではない。あくまで目標は、がんばって日常生活を継続することなのだ。ここで一番大切なのは腰痛に対する恐怖感を下げることだ。
腰が痛い真っ最中の人は、“なぜ腰が痛いのかよくわからないから怖いので、よけい痛い”のだ。
そんなもの、じっとしてたって変わるもんじゃあないし、日常生活して壊れるほど人間の身体は弱くなどない。
なので、施術に入る前に通訳さんに『基本的に危険な腰痛ではなく、筋肉疲労的なタイプの腰痛ですので2~3日で少なくとも今の痛みのレベルは下がっていきます。
ですので、その間は基本的に“安静にはしない”ようにしてください、と伝えてもらえますか?』
すると、今までは普通に通訳してくれていたのに、『えぇっ?こんなに痛がっているのに“安静にしなくて平気なんですか?”』と訳すどころか逆に私に意見をしてきた。
ちょっと、ちょっとちょっと。
あなたの役目は通訳でしょ?なんで持論を展開しちゃってるの?と思ったがそう思うのも無理もない。
通訳さん自身、腰痛の経験がないらしいし、どうしても人間は痛い部分をかばい、守ろうとしてしまうもの。自己防衛本能とはすごいものだ。
これはまず、通訳さんの方からきちんとした説明をしなければならない。ここが言葉の伝達の怖く難しいところだ。
もしこれで、通訳さんに対して改めて説明することなく無理やり訳して伝えさせたところで、言葉の意味的な部分は訳され相手の耳に入るかもしれないが、それと同時に“不安”という感情も相手には伝ってしまう。
これ単純な図式。そこでまず通訳の方に、この場合の腰痛に対して安静にすることの必要の無さを話し、動かしていくほうが血液循環を自ら促し、回復を早めることができるのを説明した。
ようやく通訳の方も納得してくれ、きちんと伝えてもらいたいことが患者さんに伝わり事なきを得たのだった・・・
今回の話、これ異国・異言語通しのやりとりだからこそわかりやすい図式になって現れたが、これ別段日本人通しでも同じことが言えるし、ひょっとしたら日本人通しの方がやっかいかもしれない。
伝わらない、と思うからこそ必死に言葉を選び話すものだが、
“日本語なんだからわかるでしょ”ぐらいの気持ちで話してしまったら、別のまったく関係の無いものが伝わっているかもしれないのだ。
そして、わかっちゃいるのだが、またもやこんなにも長々と書いてしまったが、これはこれで中々うまくは伝わらないものなんだよなぁ・・・
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