番外編 『富士山頂で仁王立ち ~完結編~ 』
はっきり言って、この8合目から頂上までの間の記憶はほとんどない。極限の疲労と空気の薄さで脳が正常には機能していなかったのがひとつ。
もうひとつは、景色がまったく変わらないからなのだ。
とにかく、山頂から吹き降りる超強風と霧で何も見えない状態。そんな状態がどのくらい続いたのだろうか、おそらく実時間的には2時間程度なのだが、体感時間では2日間ぐらい歩いた気がする。
すると、それまでゆっくりとはいえ進み続けていた先頭の外国人軍団の足が止まった。
はっ、として辺りを見回すと序々に辺りは明るくなっていた。日の出が近いのか、あたりの景色がはっきりしてくると同時に、自分の置かれている状況がリアルに現実感を帯びてきた・・・
ふと上を見上げると、上にもう道はない。
『頂上だっ!!・・・』
しかし、肝心の先頭外国人集団野郎は一向に進みゃあしない。
『ふざけんな!!ここまできて頂上直前で感慨にふけってるんじゃねえよ!!』
と、思ってみたらちょっと様子が違っていた・・・
上がれないのだ、風が強すぎて・・・
信じられなかったが、よくよく考えればこの風は山のてっぺんから下に吹き降りるもの。つまり、この頂上の最後の一歩というのは言わば風の吹き出し口なのだ。
屈強そうな外国人ですら、その最後の一歩を踏み上がるのに一人3分ぐらいかかったのだからその風の強さが想像していただけるであろう。
そして数分後、私も着いた。ついに頂上に、日本一の場所に着いたのだ。
そう、日本一危険な所にね・・・
もちろん、ご来光どころか3m先すら見えず、はたしてここが富士山頂なのかすら疑わしいほどだった。
とにかく霧の中から人が現れ、また霧の中に消えていく・・・その繰り返し。
そして今回、一連の道中で一番印象に残っているシーンは、その頂上で記念撮影をしようとデジカメを構えていた人のカメラが、
“強風で霧の中に吹き飛ばされていたシーンですかね・・・”
もう、ほんとびっくり。
とにかく、気を抜いたら死ぬ。それだけはまず間違いない。なのでもうろうとする意識の中、なんとか冷静に状況判断を試みてみる。
すると、よくみると霧の中に建物がひとつ。その場にいるほとんどの人間がその建物の壁に張り付き風から身を守っている。
どうやらこの建物、頂上にある売店らしい。今にも風で吹っ飛びそうなこのほったて小屋がそこにいる登山者全員のライフラインなのだ。
数分後、そのほったて小屋に明かりが灯る。ガタガタとドアが開けられると同時に全員がなだれ込む、もう登山者ではなくて“難民”です。
中に入ると、長机に丸イスが無造作に並んでいる、吊るされた裸電球がリアルすぎだ。
室内の奥には、店員らしき一団がいた。しかしどう見ても店員などという甘い存在ではないのは一目でわかった。
読者にもわかりやすい表現で言うとね・・・
“山賊”です。
どこをどうみても山賊にしか見えない一団。そしてなだれ込む難民達に開口一番こう言い放った、
「持参した携帯コンロ等の使用は厳禁ね!!一人でもいたら“全員外に追い出すからねっ!!!」
『ありえねぇっ・・・あいつら鬼や!!』
まあ、語弊の無い様に一応補足しておきますが、山小屋の人の対応ってのはこれ常識らしいですね。彼らも命がけでこの場にいるわけで、接客精神など無くて当然なのでしょう。
が、そんなもんその時は判断できませんけどね・・・
突然話が変わって申し訳ないが今、巷では『日本沈没』なる映画が上映されているらしいですが、
あんなもん観にいくぐらいなら悪天候の富士山頂に来たほうがいいですよ。
“リアル・日本沈没状態”ですから・・・
気を落ち着かせ、もう一度その建物内を見て回る。とにかく雨風を防げる室内は外に比べれば天国だ。
そして売店だけに、当たり前だが品物が売られている。なんとか一番奥の食堂の配膳場みたいなところまでヨロヨロ歩いてみる。
その道すがらに座り込む人々は本当に洒落にならなそうな人も中にはいた。あらためて登山の怖さを思い知る。そして奥までたどり着いた私の目に飛び込んだ驚きの価格表。
「カップラーメン 800円」
まあね、日本一ですから・・・
ええ、もちろん食べましたよ、カップラーメン。800円だしてね。
悔しいぐらい、美味かった。
不覚にも涙が出てしまいましたよ・・・
果たして、長年夢みていたことの現実がこれなのか・・・と思いつつも、公言通り、富士山頂で仁王立ちしながら改めて決意したのだ。
“もう二度とこねぇ!!”
終わり。
※長々とくだらない文章すみませんでした。
次回以降はもうすこし役に立つ話を書いていきますんで・・・
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